最近いくつかの国の人々と仕事をすることが多かったり(ポーランド・ドイツを中心に周辺ヨーロッパ諸国)、大学院の研究関連で異なる文化圏の人々と話すことが多い。
今の所文化の違いによるミスコミュニケーションに大きな問題を感じていない(と思い込んでいる)が(実際はひとつ大きな失敗をしたことがあるのだが後に書くことにする)、異なる文化の人々とコミュニケーションをするに当たりなんらかの心構えを持っておくと良いだろうと思い、読んでみることにした。
内容には満足していて、異文化出身の人とコミュニケーションする機会があるならおすすめできる本だった。
(ちなみにこの本を知ったのは、以前大学院で受講した 2021年度 | 異文化協働とリーダーシップ - TOKYO TECH OCW という講義の参考書として紹介されていたからであった。東工大の学生の方がいたら是非受講をおすすめしたい。)
この本は各国の文化の8つの指標でプロッティングし、各指標についてケーススタディを交えつつ紹介していくという構成になっている。
各国の比較はこちらのページから見れる(有料)
(これらの指標がどういうデータをもとに作られているのか見つけられなかった、知ってる人いたら教えて下さい)
- Communicating: explicit vs. implicit
- Evaluating: direct negative feedback vs. indirect negative feedback
- Persuading: deductive vs. inductive
- Leading: egalitarian vs. hierarchical
- Deciding: consensual vs. top down
- Trusting: task vs. relationship
- Disagreeing: confrontational vs. avoid confrontation
- Scheduling: structured vs. flexible
この本で紹介されている指標ではないが、以下のサイトでの文化の比較も興味深かった(こっちは無料)
以下は各項に関するメモ
introduction
- 文化について語るときによく言われる反論に、人によって性格は違うのだからその人の属する文化圏ではなく、その人個人の性格を見るべきだという主張がある。この意見はもっともだし、もちろん個人によって各指標がどちらに傾いているかは異なる。
- あくまで各国が各指標においてどこに位置するかは統計的なものであって、その文化圏における外れ値的な人はもちろんいる。
各文化には幅があり、各個人はその幅のなかで選択を行う。文化か個人の性格かではなく、文化と個人の性格が問題。8つの指標を知ることは、文化的コンテキストの中で各個人の選択や性質を見極める手助けとなる。
- 各文化の指標を読み解く際にもうひとつ大切なのが、指標の絶対値を見るのではなく、ある文化と比べてある文化がどこに属しているかという相対的な値に注目するべき
あなたがある文化の中にいるとき、その文化を見ることはしばしば難しく、不可能なときすらある。一つの文化でしか過ごしてない人は、地域差や個人差にしか目が行かないことが多く、そのため「この国の文化ははっきりとした特徴を持っていない」と結論づけてしまう。 (P42)
Communicating: explicit vs. implicit
- 自分よりハイコンテキスト(implicit communication)な文化出身の人々と働く際の戦略
- 何を行っているかではなく、何を意味しているかを聞くように心がける、相手の発言を吟味して、明確になるような質問をする
もし聞いたことに100%の確信が持てなかったとき、肩をすくめてメッセージをうやむやなままにしておくのは良い戦略じゃない。確信が持てなかったときは明確にするために責任をもって質問する。三度か四度聞かなきゃならないときもあって、自分も相手も少し気まずくなったりもするが...
- 最大の過ちの一つは、相手が情報を意図的に省略しているとか、明快なコミュニケーションができないと受け取ってしまうこと。
- 自分よりローコンテキストな文化出身の人々と働く際の戦略
できる限り透明で、明確で、具体的でいてください。電話した理由をきちんと説明してください。意見は透明性を保って主張してください。思っていることは全部表に出してください。電話の終わりにはキーポイントをもう一度繰り返すか、後でポイントを簡潔にまとめたメールを送ってください。言われたことが100$理解できなかったときは意味を汲み取ろうとするのではなく、理解できなかったとはっき伝えてください。
- ハイコンテキストな文化を持つ人同士がコミュニケーションする場合が一番やっかい
- お互いに多くを語らず、お互いが勝手に言外の(誤った)意味を汲み取り、ひどいミスコミュニケーションが起きてしまう。
- なので、多文化のチームではローコンテキストなやり取りを心がけよう。
Evaluating: direct negative feedback vs. indirect negative feedback
- 一般的にはハイコンテキストなコミュニケーションを行う文化では、ネガティブ・フィードバックも間接的な傾向にある。
- しかし、ローコンテキストなコミュニケーションを行う文化であっても、ネガティブな批判は遠回しに行う文化(アメリカなど)やその反対の文化もある
- ネガティブ・フィードバックを行うかを測定する指標の一つに、ネガティブな言葉の前に、(言語学で言う)"アップグレードする"言葉を前や後につけて発言するか、ダウングレードするか
- アップグレード: absolutely, totally, strongly
- ダウングレード: kind of, sort of, a little, a bit, maybe, slightly
Persuading: deductive vs. inductive
- deductive
- 結論や事実を一般的原理や概念から導き出す思考法
- データや原理原則が有効な説得材料
- inductive
- 現実世界の個別の事実を積み重ねることで普遍的な結論へと至る
- ケーススタディが有効な説得材料となる
- 文化をまたいで説得を行う場合はデータとケーススタディをいったり来たりする方法
- 一方、日本韓国中国などのアジア人は背景などの描写に敏感で、包括的な思考パターンを持つ
- 特定の事例について話す場合も全体像を説明する時間をとり、互いがいかに影響しているかを説明するべき (この部分は自分にとって当たり前過ぎてピンと来なかった)
- 多文化チームを効率的に率いるには?
- 多文化チームにおいては文化の違う人々をできる限り少数にすることで時間を節約できる、異文化交流の連携部分は異文化交流の経験の多い人に任せる
- 多文化との連携を図る前に大目標を慎重に検討、目標がスピードや効率性なら単一文化のほうがいい
Leading: egalitarian vs. hierarchical / Deciding: consensual vs. top down
- 組織構造が階層的であることと意思決定のプロセスがトップダウン的かは別
- 一般的に階層的な組織構造では意思決定もトップダウンだし、フラットな組織構造では意思決定も合意に基づく
- 日本はかなり特殊で、組織構造は階層的で、意思決定プロセスは合意に基づく
- これによりできるのが"稟議"で、階層的な合意を効率的に行うシステム
稟議とは、会社・官庁などの組織において、会議の開催により消費する時間を減らすため、担当者が簡易案件を作成して関係者に回し、それぞれに同意のための捺印と承認を求めることをいう。 稟議書 - Wikipedia
- このような階層的な組織構造かつ、合意に基づく意思決定を行う文化圏(日本)で有効なのが "根回し"
- 根回し: 公式に合意を確認するための会議の前に、非公式に会合をもって合意を形成しておく
Trusting: task vs. relationship
- 認知的信頼(trust by task)と感情的信頼(trust by relationship)
- 例えばアメリカでは2つは完全に分けて考える一方(trust by task)、中国などでは混ぜて考える傾向にある(trust by relationship)
- アメリカなどで全く感情的信頼が仕事で必要ないかというとそんなことはない、あくまで日本や中国と比べてという話
- いちど感情的信頼が構築されると、どんな文化的失敗を犯したとしても許してもらいやすくなるので、感情的信頼の構築は重要、問題はどう構築するか
- 共通の話題をもつ
- 本当の自分を見せる
- 本題の前の雑談の時間も文化により異なる
Disagreeing: confrontational vs. avoid confrontation
この本で一番良かった章
- 自分より対立型の文化の人と会話する場合に気をつけること
自分自身より対立型の文化の人と仕事している場合も見解の相違を表明するのにどこまでが許容される発言でどこからがアウトかはっきりしたニュアンスがわかっていないなら強い言葉の使用には普段よりも注意を払おう。海外とのミーティングで...ドイツ人の取引先に「あなたの提案には完全に反対です」というのはおすすめしない。こうした文化圏では見解の相違は他の文化より率直伝えられるが、だからといってなんでもありというわけではない。ちょっと気を抜くと行き過ぎてしまう。
- 相手には反論を出させながら、自分にはこれが彼らの積極的な参加の姿勢であり自分個人を批判しているのではないと言い聞かせ、自分が発言する際は無理に相手と同じようなスタイルに合わせる必要はない。もしくは "devil’s advocate" の前置詞をつける (play devil's adovocate とは、日本語で言うなら"あえて意地悪な質問をする(議論をさらに深めて主張を強固なものにするため)"というもの)
- (以前ドイツからのジョブハンティングのメールに「ありがとう!でもあなたのビジネスに全然興味はないのでお断りさせてください。」と返信して怒らせてしまったことがある。(以前ドイツの会社との面接で相手から笑顔で「これ以上は時間の無駄なのでこれで終わりにしましょう」と言われてこういう感じの発言はセーフなのかと勘違いしてしまったのであった...)
- 自分より対立回避型の人と会話する場合
- 日本韓国中国などの儒教的な国では公衆の面前で間違いを指摘されて面子を失い恥をかいてしまうので注意
- 見解の相違を表明するのにダウングレードした言葉を使う
- 対立回避型の文化圏で意見を引き出すには?上司がミーティングに参加しない、反論を非人格化する(匿名)slidoで質問を受け付けるなど
Scheduling: structured vs. flexible
- 文化によってスケジュールへの許容度は異なる
- 日本は時間に厳しく、インドはゆっくりなど
- モノクロニックとポリクロニック
- モノクロニックな文化では時間は触れることのできる具体的なものと考える。スケジュールは生活に秩序を与える分類体系
- ポリクロニックでは人との関わりや取引の完遂によってスケジューリングを行う。